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京都地方裁判所 昭和58年(行ウ)19号 判決 1985年7月17日

京都市上京区下立売通黒門西入橋西二町目六三三番地

原告

林孝一

訴訟代理人弁護士

高田良爾

京都市上京区一条西洞院東

被告

上京税務署長

土肥米之

指定代理人検事

佐山雅彦

主文

被告が、昭和五七年三月二日付で原告に対してした、原告の昭和五三年分ないし昭和五五年分の所得税更正処分のうち、昭和五三年分の総所得金額が三一四万九六四五円を、昭和五四年分の総所得金額が二三三万二二〇五円を、いずれも超える部分を取り消す。

原告の昭和五三年分並びに昭和五四年分に関するその余の請求及び昭和五五年分に関する請求を棄却する。訴訟費用は五分し、その四を原告の、その一を被告の、各負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  原告

被告が、昭和五七年三月二日付で原告に対してした、原告の昭和五三年分ないし昭和五五年分(以下本件係争年分という)の所得税更正処分(但し、昭和五五年分については、裁決によって一部取り消された後のもの。以下本件処分という)のうち、昭和五三年分の総所得金額が二〇二万七九七七円を昭和五四年分の総所得金額が一九二万一一四九円を、昭和五五年分の総所得金額が一七四〇〇〇円を、いずれも超える部分を取り消す。

訴訟費用は、被告の負担とする。

との判決。

二  被告

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

との判決。

第二当事者の主張

一  本件請求の原因事実

1  原告は、肩書地において、「林孝一商店」の屋号で、引箔のための皮革用ラッカー、金銀ラッカー、引箔用の紙、転写箔、銀箔、着色箔及び着色に関する材料を販売している白色申告納税者である。

2  原告は、被告に対し、本件係争年分の確定申告をしたところ、被告は、昭和五七年三月二日、原告に対し、所得税更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分をした。そこで、原告は、被告に対する異議申立て、国税不服審判所長に対する審査請求をしたが、その経緯と内容は、別紙1記載のとおりである。

3  しかし、本件処分には、次の違法がある。

(一) 被告の部下職員は、原告に対して税務調査を行うについて、第三者の立会いを認めず、調査理由を開示しなかった。

(二) 被告は、原告の本件係争年分の総所得金額を過大に認定した。

4  結論

原告は、本件処分のうち、請求の趣旨第一項記載の各金額を超える部分の取消しを求める。

二  被告の答弁

本件請求の原因事実中、1及び2の各事実は認め、3の主張は争う。

三  被告の主張

(本件税務調査について)

1 原告が、提出した本件係争年分の所得税確定申告書は、所得金額計算の基礎の記載を欠き、極めて不十分なものであったため、被告は、原告の本件係争年分の所得金額を確認するため、昭和五六年九月二九日以降数回にわたって、部下職員を原告方に臨場させた。右部下職員は、原告に対し、本件係争年分の申告された所得金額が適正であるかどうかを確認するために調査に来た旨を告げて、所得金額の計算上必要な帳簿書類等の提示を求め、原告の理解と協力を得て調査を行おうとしたが、原告は、調査に関係のない第三者の立会いを強要するばかりで、右部下職員の調査に応じようとしなかった。

そこで、被告は、やむを得ず原告の取引先等の反面調査を行い、その結果に基づいて、原告の本件係争年分の所得金額を推計し、所得税更正処分をしたのである。

2 税務調査における第三者の立会いの許否は、税務当局または、調査担当官の裁量に委ねられているというべきであるから、被告の部下職員が第三者の立会いを拒否した点に違法はない。また、税務署長は、納税者に対し、税務調査の具体的理由を開示すべき義務がないうえ、本件税務調査においては、前記のとおり、被告の部下職員が原告に対し、調査理由を告げているのであるから、この点についても、原告主張の違法はない。

3 したがって、本件税務調査は適法である。

(本件処分の適法性について)

1 原告の本件係争年分の事業所得金額は次のとおりであり本件処分の額はこれを下回るから、本件処分に原告の所得を過大に認定した違法はない。

年分 被告主張額(円) 本件処分の額(円)

昭和五三 四九四万九六四五 三八一万七八一〇

昭和五四 三五三万二二〇五 二七四万七〇二九

昭和五五 五〇五万一五四〇 四八〇万四〇一四

なお、原告には、塗料及びその関連商品(以下塗料という)のほかに、箔及び箔材料(以下箔という)の仕入れがあるので、原告の仕入金額を塗料の仕入金額と箔の仕入金額とに二分したうえ、それぞれに、各類似同業者の同業者率を適用して、事業所得金額を推計したものである。

以下に分説する。

2 別紙2の<2>売上原価

<2>売上原価の内訳は、別紙3記載のとおりである。

なお、原告は、本件係争年分のたな卸額について明らかにしておらず、また、原告の事業では、本件係争年分の期首及び期末の各たな卸額に大差はないと認められるから、塗料については、別紙3の(1)の仕入金額をもって本件係争年分の売上原価とし、箔については、同(2)の仕入金額をもって本件係争年分の売上原価とした。

3 別紙2の<1>売上金額

(一) 同業者の売上原価率の算出

(1) 塗料について

被告は、原告の所轄税務署である上京税務署を含む京都市内の各税務署管内において、所得税の確定申告書を提出している個人のうちから、本件係争年分を通じて、次の<1>ないし<6>に掲げる条件のすべてに該当する者を抽出した。

<1> 京都市内において塗料販売業を営んでいること。

<2> 右<1>以外の業種を兼業していないこと。

<3> 青色申告書を提出していること。

<4> 売上原価の金額が六〇〇万円以上三四〇〇万円未満であること。

右売上原価の金額の範囲は、原告の塗料の売上原価の金額を基準として、下限を昭和五五年分の売上原価の金額一二二六万〇三一一円の約五〇パーセントとし、上限を昭和五三年分の売上原価の金額一六九九万五六一三円の約二〇〇パーセントとした。

<5> 年間を通じて事業を営んでいること。

<6> 不服申立て又は訴訟が係属中でないこと。

右の選定基準は、原告の事業内容に基づいて設定されたものであり、当該基準により選定された同業者は、原告と業種及び事業規模が類似しており、また、その抽出は、大阪国税局長の通達に基づいて機械的になされたものであるから恣意の介入する余地はなく、かつ同業者率算定の基礎とした資料は、右各同業者が所轄税務署長に提出した青色申告決算書に記載されている金額(ただし、調査を行った者については、調査後の金額)であり、すべて正確なものである。

したがって、被告が、右により選定された同業者の売上原価率及び所得率の平均値を用いて原告の本件係争年分の塗料の売上金額及び算出所得金額を推計したことは、合理的である。

(2) 箔について

被告は、原告の所轄税務署である上京税務署を含む京都市内の各税務署において、所得税の確定申告書を提出している個人のうちから、本件係争年分を通じて、次の<1>ないし<7>に掲げる条件のすべてに該当する者を抽出した。

<1> 箔材料の販売をしていること。

<2> 右<1>以外の業種を兼業していないこと。

<3> 個人で事業を営んでいること。

<4> 青色申告書を提出していること。

<5> 売上原価の金額が三〇〇万円以上三八〇〇万円未満であること。

右売上原価の金額の範囲は、原告の箔の売上原価の金額を基準として、下限を昭和五四年分の売上原価の金額六九八万八三六〇円の約五〇パーセントとし、上限を昭和五五年分の売上原価の金額一八五五万一七七二円の二〇〇パーセントとした。

<6> 年間を通じて事業を継続して営んでいること。

<7> 不服申立て又は訴訟係属中でないこと。

右の抽出基準により選定された同業者は、いずれも、原告と業種・業態・事業規模・立地条件が類似した者であり、これらの同業者の本件係争年分の青色申告書を基礎に算定した売上原価率及び算出所得率を適用して、原告の本件係争年分の箔の売上金額及び算出所得金額を推計したことは、合理的である。

(3) 右各基準に基づいて選定された同業者は、塗料については四件、箔については二件であり、それを整理して記載したものが別紙4及び5であるが、これによると本件係争年分の同業者の平均売上原価率は、次のとおりである。

塗料について

年分 同業者の平均売上原価率(%)

昭和五三 七五・一四

昭和五四 七四・六八

昭和五五 七五・二一

箔について

年分 同業者の平均売上原価率(%)

昭和五三 七八・八二

昭和五四 八二・〇〇

昭和五五 八三・三五

(二) 別紙2の<1>売上金額は、前項記載の原告の本件係争年分の売上原価を、右同業者の平均売上原価率で除して算出した金額である。

4 別紙2の<4>算出所得金額

(一) 同業者の算出所得率の算出

同業者の算出所得率(売上金額から売上原価及び一般経費を控除した金額の売上金額に占める割合)は、別紙4及び5記載のとおりであり、その平均値は、次のとおりである。

塗料について

年分 同業者の平均算出所得率(%)

昭和五三 一六・三三

昭和五四 一七・八八

昭和五五 一七・四七

箔について

年分 同業者の平均算出所得率(%)

昭和五三 一六・七八

昭和五四 一四・八五

昭和五五 一三・八四

(二) 別紙2の<4>算出所得金額は、前項記載の原告の本件係争年分の売上金額に、右同業者の平均算出所得率を乗じて算出した金額である。

5 別紙2の<6>特別経費

<6>特別経費の内訳は、別紙6記載のとおりである。

6 別紙2の<7>事業専従者控除額

<7>事業専従者控除額は、原告が確定申告書に記載した金額である。

四  被告の主張に対する原告の反論

1  別紙2の<2>売上原価中、別紙3記載の仕入先及び仕入金額は認める。但し、別紙3の(2)箔の部記載の仕入先からの仕入商品は別紙7記載のとおりで、後記のとおり、箔以外の物を仕入れている仕入先が含まれているから、これを箔の仕入金額から除外すべきである。

別紙2の<6>特別経費及び<7>事業専従者控除額は認める。

2  原告は、訴外小野勉を雇用し、昭和五三年分として一八〇万円を、昭和五四年分として一二〇万円を、それぞれ給与として支払った。したがって、右金額を特別経費の雇人費として、控除しなければならない。

3(一)  塗料について

同業者BないしEは、次のとおり、原告と類似性がない。

(1) 原告の取扱商品は引箔用の塗料であるのに対し、同業は、家庭用、木工用及び工業用の塗料を扱っているうえ、その中には、手袋やはけを販売している業者もあるなど、取扱商品を異にする。

(2) 原告には店舗がなく店頭売りもないのに対し、同業者には店舗があり店頭売りもしている。店頭売りの方が利益率が高いのである。さらに、同業者Bは、原告の仕入先の溝塗料店こと訴外溝一男であり、販売ルートを異にするのである。したがって、原告と同業者は販売形態が異るというべきである。

(二)  箔について

(1) 箔、引箔、紙及びその入手経路は、別紙8記載のとおりであるが、そのうち箔に該るのはだけであり、着色に関する材料、引箔用の紙及び転写箔は箔及び箔材料ではない。したがって、被告の主張は、箔でないものを箔として計算したもので、誤りである。

(2) 原告の本件係争年分の箔の全仕入額に占める割合は次のとおりである。

年分 箔の全仕入額に占める割合(%)

昭和五三 七・二

昭和五四 一一・〇

昭和五五 一〇・一

五  被告の反駁

1  雇人費の主張は争う。

2  取扱商品の類似性

塗料には、建築用、工業用(木工、機械、金属用)、皮革用、家庭用があるが、これらは、用途が異るだけで、いずれも塗料であることに変わりはない。そのうえ、塗料がどのような用途に使われるかは需要者によって異なるのであり、このことは、原告自身が引箔用として取り扱っている塗料が引箔用に作られたものではなく、皮革用として使われている塗料を引箔に利用していることからも明らかである。

したがって、取扱商品の類似性は、塗料一般の類似性で足り、塗料の用途についてまで類似性を求める必要性を求める必要性はない。

3  販売形態の類似性

一般に、塗料の需要は業務用が主であり、一般顧客に対する店頭売上げの割合が少ないことは、公知の事実である。さらに、一般顧客に対する売上げはスーパーや大型日曜大工用品専門店に押され、塗料店が取り扱う量は少なく、京都市内の塗料店のほとんどが、固定客に対する外販(配達売上げ)で経営を維持しているのが実状である。

ところで、被告が選定した同業者の売上金額に占める店頭売上げの割合は、最も多い同業者Cが三〇パーセントであり、最も少ない同業者Dは三パーセントにすぎず、いずれにしても、売上金額の七〇パーセント以上が外販によるものである。

そこでさらに、これらの同業者の売上原価率について検討してみると、店頭売上げの割合の最も多い同業者Cの本件係争年分の売上原価率は七四・一八パーセントないし七七・一七パーセントであり、最も少ない同業者Dの七二・五一パーセントないし七六・七二パーセントと較べても特段の差異は認められないのである。

したがって、原告と同業者との販売形態の相違は、近似値としての推計課税を不合理ならしめる程の特殊事情とは認められないというべきであり、かかる細部にわたって類似性を求めることは推計課税を全く否定することとなる。

第三証拠

証拠関係は、本件記録中の証拠関係目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  本件請求の原因事実中、1及び2の各事実は、当事者間に争いがない。

二  本件税務調査について判断する。

1  証人間瀬茂の証言によると、被告の部下職員訴外間瀬茂は、昭和五六年九月二九日以降七回にわたって原告方へ臨場し、原告と六回面接したこと、間瀬茂は、原告に対し、本件係争年分の申告所得金額が適正であるかどうか確認するために臨場した旨を告げ、帳簿書類の提示を求めたこと、原告は、間瀬茂に対し、民主商工会関係者の立会いを求めたが、間瀬茂がその立会いを認めなかったため、税務調査に応じようとしなかったこと、そこで、間瀬茂は、それ以上税務調査を行うことができず、本件税務調査を打ち切ったこと、以上のことが認められ、この認定に反する証拠はない。

2  ところで、税務調査に第三者の立会いを許すか否か、あるいは、臨場の際、調査理由を開示するか否か、さらには、どの程度の理由を開示するかは、権限ある税務職員の合理的な裁量に委ねられているというべきところ、間瀬茂が、民主商工会関係者の立会いを認めなかったり、具体的かつ詳細な調査理由を開示しなかったことについて、その裁量権濫用の事実が認められる証拠がない本件では、間瀬茂の右措置を直ちに違法とすることはできない。

3  そうすると、本件税務調査には違法がないから、これを違法であるとする原告の主張は、採用しない。

三  本件処分の適法性について判断する。

1  塗料について

(一)  売上原価

別紙3の(1)塗料の部記載の仕入先及び金額は、当事者間に争いがない。

そうすると、原告の本件係争年分の売上原価は、昭和五三年分が一六九九万五六一三円、昭和五四年分が一三一三万二一二四円、昭和五五年分が一二二六万〇三一一円である。

(二)  売上金額

(1) 証人盛田正昭の証言によって成立が認められる乙第二ないし第四号証の各一、二、弁論の全趣旨によって成立が認められる同第二八ないし第三〇号証の各一ないし四及び同証言によると、被告主張の方法と基準によって抽出した四件の同業者を整理して記載したのが別紙4であることが認められ、この認定に反する証拠はない。

右認定事実によると、これらの同業者は、取扱商品、営業地域、営業規模、営業形態の点で原告と類以性があるうえ、青色申告納税者で、その計算の基礎となる資料は正確であるから、右同業者の売上原価率及び所得率の平均値を用いて原告の本件係争年分の所得金額を推計することには合理性があるとしなければならない。

(2) これに対し、原告は、これらの同業者は、原告と取扱商品を異にするから類以性がないと主張するが、原告が取り扱っている塗料も、引箔用の特殊なものではなく、一般に使用されている皮革用ラッカー等であって、利益率も通常の場合と異ならないうえ、原告自身、防毒マスク等の関連商品を取り扱っている(これらの事実は、原告本人尋問の結果(第一、二回)によって認める)のであるから、これらの同業者が、原告と類以性がないとすることはできない。

原告は、さらに、同業者は、店頭売りをしていたり、原告の仕入先が含まれていたりするから、原告と営業形態を異にし、類以性がないと主張するが、証人中村嘉造の証言によって成立が認められる乙第三五ないし第三八号証によると、四件の同業者の店頭売上の全売上に占める割合は比較的小さいうえ、店頭売上の割合の大小は、別紙4記載の売上原価率や算出所得率と相関関係がないことが認められるから、店頭売りの有無を理由に、これらの同業者が、原告と類以性がないとすることはできない。

また、別紙4の記載によると、原告が仕入先であると主張する同業者Bの売上原価率や算出所得率は、他の同業者と比較して、大差ないことが認められるから、この同業者が原告の仕入先であることの一事をもって、原告と類以性がないとするわけにはいかない。

したがって、被告主張の同業者と原告との間に類以性がないとする主張は採用しない。

(3) そうすると、同業者の本件係争年分の平均売上原価率は、別紙9の<3>のとおり昭和五三年分が七五・一四パーセント、昭和五五年分が七五・二一パーセントとなるから、原告の本件係争年分の売上金額は、別紙9の<1>のとおり、昭和五三年分が二二六一万八五九五円、昭和五四年分が一七五八万四五二五円、昭和五五年分が一六三〇万一四三七円となることは、計算上明らかである。

(三)  算出所得金額

同業者の本件係争年分の平均算出所得率は、別紙4記載のとおり、昭和五三年分が一六・三三パーセント、昭和五四年分が一七・八八パーセント、昭和五五年分が一七・四七パーセントであるから、原告の本件係争年分の算出所得金額は、別紙9の<4>のとおり、昭和五三年分が三六九万三六一六円、昭和五四年分が三一四万四一一三円、昭和五五年分が二八四万七八六一円となることは、計算上明らかである。

2  箔について

(一)  売上原価

(1) 別紙3の(2)箔の部記載の仕入先及び金額は、当事者間に争いがない。

(2) 原告は、別紙3の(2)箔の部記載の仕入商品には、箔及び箔材料以外の物が含まれているから、これを除外して計算すべきであると主張する。

しかし、被告が箔及び箔材料としているのは、厳密な意味での箔及びその材料に限定されるものではなく、引箔やその材料をも含む趣旨であることは明らかである。そして原告自身も、本人尋問(第二回)で、右仕入先から仕入商品が引箔の材料であることは認めているのである。

(3) したがって、当裁判所は、被告主張のとおり、別紙3の(2)箔の部記載の仕入金額を、原告の本件係争年分の売上原価とするが、その合計額は、別紙9の<2>のとおり昭和五三年分が一〇六九万八〇四九円、昭和五四年分が六九八万八三六〇円、昭和五五年分が一八五五万一七七二円である。

(二)  売上金額

(1) 証人中村嘉造の証言によって成立が認められる乙第三三、三四号証の各一、二及び同証言によると、被告主張の方法と基準によって抽出した二件の同業者を整理して記載したのが別紙5であることが認められ、この認定に反する証拠はない。

これらの同業者は、取扱商品、営業地域、営業規模、営業形態の点で原告と類似性があるうえ、青色申告納税者で、その計算の基礎となる資料は正確であるから、右同業者の売上原価率及び所得率の平均値を用いて原告の本件係争年分の所得金額を推計することには合理性があるとしなければならない。

(2) そうすると、同業者の本件係争年分の平均売上原価率は、別紙9の<3>のとおり昭和五三年分が七八・八二パーセント、昭和五四年分が八二・〇〇パーセント、昭和五五年分が八三・三五パーセントとなるから、原告の本件係争年分の売上金額は、別紙9の<1>のとおり、昭和五三年分が一三五七万二七五九円、昭和五四年分が八五二万二三九〇円、昭和五五年分が二二二五万七六七四円となることは、計算上明らかである。

(三)  同業者の本件係争年分の平均算出所得率は、別紙9の<5>のとおり、昭和五三年分が一六・七八パーセント、昭和五四年分が一四・八五パーセント、昭和五五年分が一三・八四パーセントであるから、原告の本件係争年分の算出所得金額は、別紙9の<4>のとおり、昭和五三年分が二二七万七五〇八円、昭和五四年分が一二六万五五七四円、昭和五五年分が三〇八万〇四六二円となることは、計算上明らかである。

3  原告の本件係争年分の算出所得金額は、右の塗料及び箔の各算出所得金額の合計額であるが、別紙9の<4>のとおり、昭和五三年分が五九七万一一二四円、昭和五四年分が四四〇万九六八七円、昭和五五年分が五九二万八三二三円である。

4  特別経費

(一)  支払利子割引料、地代家賃

別紙6記載の支払利子割引料及び地代家賃の各金額は、当事者間に争いがない。そこで、別紙9の<7>、<8>として計上する。

(二)  雇人費

原告は、小野勉に対し、昭和五三年分として一八〇万円を、昭和五四年分として一二〇万円を、それぞれ給与として支払ったと主張するが、これにそう証拠は、原告本人尋問の結果(第一回)だけである。しかしながら、被告は、この点について、単に「争う。」と述べるだけで、何ら具体的な反論をしないし、反証も挙げないから、当裁判所は、原告主張のとおり、特別経費の雇人費として昭和五三年分が一八〇万円、昭和五四年分が一二〇万円であると認める。

5  事業専従者控除額

事業専従者控除額は、当事者間に争いがない。

6  以上の認定を整理して記載したものが別紙9であり、原告の本件係争年分の事業所得金額について、当裁判所の認定額と本件処分の額とを対比すると、次のとおりである。

年分 当裁判所の認定額(円) 本件処分の額(円)

昭和五三 三一四万九六四五 三八一万七八一〇

昭和五四 二三三万二二〇五 二七四万七〇二九

昭和五五 五〇九万一五四〇 四八〇万四〇一四

そうすると、本件処分のうち、昭和五三、五四年度分については、原告の総所得金額を過大に認定した違法があることに帰着する。

四  以上の次第で、本件処分のうち、昭和五三年度分の総所得金額が三一四万九六四五円を、昭和五四年度分の総所得金額が二三三万二二〇五円を、いずれも超える部分を取り消し、原告のその余の請求を棄却することとし、行訴法七条、民訴法八九条、九二条に従い、主文のとおり判決する。

(裁判官 武田多喜子 裁判官 長久保尚善 裁判長裁判官古崎慶長は、転補のため署名捺印することができない。裁判官 武田多喜子)

別紙1

本件課税の経緯

<省略>

別紙2

本件係争年分の事業所得金額の計算

<省略>

別紙3

本件係争年分の売上原価の明細

(1) 塗料の部

<省略>

(2) 箔の部

<省略>

別紙4

本件係争年分の塗料の同業者率の算定について

<省略>

別紙5

本件係争年分の箔の同業者率の算定について

<省略>

別紙6

本件係争年分の特別経費の明細

(1) 支払利子割引料の明細

<省略>

(2) 地代家賃の計算

<省略>

別紙7

別紙3の(2)記載の仕入先からの仕入商品の内訳

<省略>

別紙8

箔・引箔・紙及びその入手経路

<省略>

別紙9

当裁判所の認定

<省略>

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